2017年7月27日（木）
日本経済新聞（夕刊）から

コーヒー探求
こだわり一杯

自分好みの味を追求するコーヒー愛好家が増えている。コンビニエンスストアなどで手軽においしいコーヒーが手に入るようになったことから、もっと自分に合ったコーヒーを求めて勉強したり、希少な豆を求めたりする動きが広がっているのだ。コーヒーチェーン側も新たなニーズに応えるため、消費者向けのスクールを開くなど工夫している。

6月下旬、タリーズコーヒー錦糸町アルカウエスト店（東京・墨田）で開かれたコーヒースクール。参加した20～30代の男女4人が真剣な表情でコーヒーの抽出法を学んだ。講師役のスタッフが注ぐ湯量や速さで味が微妙に変わることを実演しながら始動。生徒たちは細口のケトルでコーヒーの粉にお湯を注ぎ始めた。
これまで自己流でコーヒーをいれていた都内に済む30代の女性会社員は「友人が自宅に来た時に本格的な方法で出してあげたい」とにっこり。最近コーヒーを自分でいれるようになったという会社員男性（25）は、「いれ方で味が変わるコーヒーは奥が深い。おいしくできたら仕事の疲れも癒やされる」と満足げな表情を浮かべた。
別のコースでは飲み比べしながら、産地ごとの味の傾向、豆のひき具合や焙煎（ばいせん）による味の変化、スイーツとの相性などより深い内容で学べる。
タリーズコーヒーでは利用客からの要望を受け、コーヒースクールの開催数を年2000回と5年前の2倍に増やした。さらに今後1年で、基礎知識を持ったスタッフを3000人から4500人にする。
2013年にコンビニ最大手のセブンイレブン・ジャパンがひきたての豆で作ったコーヒーを低価格で提供したことでコーヒー市場が活性化。全日本コーヒー協会がまとめたコーヒー消費量は16年、4年連続で過去最高を更新した。

舌が肥えた消費者の間では、知識を深めてもっとおいしいコーヒーを飲みたいというニーズが高まっている。これに応えるため、タリーズコーヒーでは焙煎や詳しい抽出方法まで教えられるスタッフも新たに育てる。研修場所として昨秋開業した「ロースターラボ青葉台店」（横浜市）を活用。焙煎機を併設し、豆の特徴などを説明する同社初のフルサービス型の店舗で、高いレベルの知識をスタッフに身につけさせる。年内にはスクールを消費者向けにも開放する。
来店客の気分に合わせて、豆や抽出方法を選べる高級店も出始めた。5月にリニューアルオープンした「スターバックスコーヒー東京ミッドタウン店」（東京・港）。店舗の2階に上がると約15メートルものカウンターが目を引く。
カウンターで注文するやり方は独特だ。店員が来店客の好みを聞いて、豆や抽出方法をレシピシートに書き込む。数種類ある希少な豆を選べるほか、抽出方法もコーヒープレスでいれたりするなど数種類の中から決められる。
「来店する度に気分に合わせた一杯を味わえる」（スターバックスコーヒージャパン）。こだわりの一杯だけに1000円前後の商品もある。

商店や住宅が並ぶ駒沢通りに面したブルーボトルコーヒー中目黒カフェ（東京・目黒）。店員が客の好みを聞きながら、焙煎してから香りがピーク時の豆を使い、目の前で1杯ずつ丁寧にドリップしていれてくれる。店員と楽しげに話していた男性（56）は「コーヒー豆の産地が異なるだけで、味や香りが大きく違うのがおもしろい」と、仕事が休みの日に数店舗のカフェを巡るという。
水をゆっくりと落としながら抽出する「コールドブリュー」を売り物にするブルーボトルコーヒーは、15年に日本に進出して6店舗を展開する。
ブルーボトルコーヒージャパンの井川沙紀取締役は「食へのこだわりも強まるなか、コーヒーはワインのように奥が深く、身近にあるので趣味としても始めやすい」と、最近の日本のコーヒー人気の理由を分析する。コーヒーの消費量は今後も拡大が見込まれており、自分だけの特別な一杯を求める消費者は今後も増えそうだ。（栗本優・小田浩靖）